非加熱抽出いわし油の機能性報告書
 
 
 
非加熱抽出イワシ油の機能性
北海道大学大学院水産科学研究所 教授:宮下和夫 助教授:細川雅史
関西医科大学 助教授:福永健治

1.はじめに
 イワシ油、マグロ眼窩油、カツオ油といった魚油は、エイコサペンタエン酸(EPA)やドコサヘキサエン酸(DHA)などのn−3系の多価不飽和脂肪酸を多量に含むため、コレステロール低下作用や中性脂肪低下作用を有することが知られている。これらの生理作用により、魚油は抗動脈硬化作用や高血圧低下作用を有するとされており、その健康食品などへの積極的利用が図られている
 一般的に用いられる魚油は、煮取り法と呼ばれている工程を経て、イワシ、カツオ、マグロなどの魚体各部から工業的に製造される。例えば、フィッシュミールの生産工程でも魚油が得られるが、この場合、蒸し煮にしたイワシを圧搾し、生じた油分を低速遠心分離機と高速遠心分離機に供することで採油を行っている。ところで、魚体を高温で蒸し煮する煮取り法で得られた魚油はそのまま食用油脂として用いることはできず、さらに、精製(脱色・脱臭など)を行う必要がある。しかし、魚油に多く含まれるDHAやEPAは分子中に多数の二重結合を有するために極めて不安定であり、煮取り工程などのように高温で処理する方法ではDHAやEPAは容易に酸化され、得られた魚油の品質が低下する恐れがある。また、煮取りで得られた粗油の
精製も高温で行われるため、こうした工程では反応性の高いDHAやEPAは異性化や重合などの様々な反応を起こし、その本来の栄養価が損なわれることも懸念される。さらに、魚体組織に存在する“生”魚油中にはDHAやEPA以外にも各種の機能性の脂溶性成分や微量の水溶性成分が含まれていることも予想されるが従来の方法で得られた魚油ではこうした成分は失われる可能性がある。したがって、加熱工程を伴わない天然に含まれる魚油そのものの効率的な回収方法が求められる。
 これに対して、イワシすり身排液から遠心分離により得られたイワシ油 (非加熱抽出イワシ油) では、すべての製造工程が 非加熱 で行われるため、魚油中に含まれる活性成分の消失が最小限に抑えられている可能性が高い。また、通常の工程(煮取り工程)で得られたイワシ油のように精製工程中での非栄養成分の生成も起こらない。したがって、 非加熱抽出イワシ油 は、従来の煮取り法により回収された魚油などと比べて機能性の高い可能性がある。
 そこで、本研究では、 非加熱抽出イワシ油 と市販のイワシ油との機能性、特に、肥満防止(脂肪蓄積抑制)と脂質代謝改善作用について検討した。
2.実験の概要
1)使用したイワシ油
  @ 非加熱抽出イワシ油 :マイワシすり身排液から低温下、遠心分離法によって得られた魚油。こうして得られた油脂は黄色をしており透明感も強かった。また、味も通常の市販魚油と変わらず苦味等もなかった。したがって、これらの油脂これ以上の精製(脱色、脱臭)をせずに食用油脂として利用できると考えられた。
  A市販のイワシ油:蒸し煮したカタクチイワシを圧搾し、生じた油分を遠心分離することで得られた魚油。いわゆる一般のイワシ油で、こうした方法で得られるイワシ油は主としてフィッシュミールの生産工程で製造される。蒸し煮の工程で酸化・重合及び他の成分の反応が起こるため、原油は黒く着色した粘性の高い液体である。したがって、製品化には脱ガム、脱酸、脱臭、脱色、水蒸気蒸留などを用いて精製したものを用いた。
2)
  @脂肪酸組成:各イワシ油を酸触媒下でメチル化後、ケイ酸カラムクロマトグラフィーにて精製後ガスクロマトグラフィーで分析した。各イワシ油の主要構成脂肪酸は以下の通りである。

表ー1 各イワシ油の主要脂肪酸組成  
脂肪酸
非加熱抽出イワシ油
市販イワシ油
※市販イワシ油と表現してますがこのイワシ油は国内製薬会社が使用している最高のいわし油です。 
14:00
6.9
8.2
16:00
15.9
17.1
16:1n-7
7.8
8.5
18:0
2.8
3.2
18:1n-9
8.9
9.9
18:1n-7
2.6
3.1
18:4n-3
2.4
2.2
20:5n-3(EPA)
15.9
18.5
22:5n-3
1.7
2.3
22:6n-3(DHA)
11.6
11.3
A過酸化物価‥いずれのイワシ油も過酸化物価は 3 . Omeq / kg 以下であった。
3 )動物実験の条件:
@動 物:ラット( Wisterrats ; 4週齢)
A飼育条件‥餌と水は自由摂取、餌は AIN − 93G を基本食として与えた。餌中に脂質は
7 重量%含まれており、この内、コントロールは 7 %すべてが大豆油、また、非加熱抽出イワシ油投与群及び市販のイワシ油投与群では、 3 %のイワシ油+ 4 %大豆油とした。
B分析項目:各臓器重量、白色脂肪組織重量、血漿コレステロール、血漿中性脂肪などを検討した。白色脂肪組織は副精巣周辺部の脂肪組織重量を分析することにより求めた。
4)結果(各群 7 匹;数値は平均値±標準誤差として表した。)
@体重、臓器重量等
ー2 各群の体重及び臓器重量(解剖時)  
投 与 群
体 重(g)
肝臓重量(g)/体重(g)
小腸重量(g)/体重(g)
コントロール
232.2±7.6
4.17±0.26
1.14±0.13
市販のイワシ油
240.6±7.6
3.89±0.14
0.97±0.08
非加熱抽出イワシ油
238.7±4.0
4.14±0.20
0.87±0.04
上記の結果より、イワシ油投与による成長等での悪影響は見られないことが確かめられた。
A脂肪重量、血漿コレステロール 表一 3  
表ー3 各群の脂肪重量及び血漿コレステロール
投 与 群
白色脂肪組織重量
血漿総コレステロール
血漿遊離コレステロール
(期間1ヶ月)
(g/kg体重)
(mg/dl)
(mg/dl)
コントロール
7.96±1.14
68.9±5.2
16.6±1.3
市販のイワシ油
6.80±0.97
54.3±2.1(a)
14.0±0.7
▲14%
▲21%
▲15%
非加熱抽出イワシ油
6.11±0.87
48.1±2.8(b)
13.1±0.8(a)
▲23%
▲30%
▲21%
a , b コントロールと比べて有意差あり。( ap < 0 . 05 ; bp < 0 . 005 )
上記の結果より、いずれのイワシ油も血漿総コレステロールをコントロールと比較して有意に低 下させたが、その活性は非加熱抽出イワシ油の方が高かった。コレステロールの低下作用は、イワ シ油に含まれるエイコサペンタエン酸( EPA )やドコサヘキサエン酸( DHA )に起因すると考 えられたが、両イワシ油の EPA 、 DHA 含量に大きな違いは見られないことから(表− 1 )、非加熱抽出のコレステロール低下作用は他の要因によるものと考えられた。  また、白色脂肪組織重量も、イワシ油投与群で低下傾向にあり、そのレベルは非加熱抽出でより 顕著であった。  以上の結果より非加熱抽出は、市販のイワシ油よりも強い体脂肪抑制及びコレステロール低下 作用を示すことがわかった。
B 血漿トリグリセリド、血漿リン脂質、β−リポタンパク質
表ー4 各群の血漿トリグリセリド、血漿リン脂質、β―リポタンパク質
投 与 群
血漿トリグリセリド
血漿リン脂質
血漿β―リポタンパク質
(mg/dl)
(mg/dl)
(mg/dl)
コントロール
99.4±19.1
135.9±10.1
99.4±19.1
市販のイワシ油
59.3±9.8
112.3±3.2(a)
81.0±11.2
▲40%
▲17%
▲34%
非加熱抽出イワシ油
41.9±7.4(a)
95.0±4.6(b)
64.7±8.2(a)
▲57%
▲30%
47%
a , b コントロールと比べて有意差あり。( aP < 0 . 05 ; bp < 0 . 005 )  
上記の結果より、いずれのイワシ油も血漿トリグリセリドをコントロールと比較して有意に低下 させたが、その活性は非加熱抽出イワシ油の方が高かった。トリグリセリドの低下作用も、イワシ 油に含まれるエイコサペンタエン酸( EPA )やドコサヘキサエン酸( DHA )に起因すると考え られたが、やはりこの場合も両イワシ油の DHA 、 EPA 含有に大きな違いは見られないことから、 (表− 1 )、非加熱抽出のトリグリセリド低下作用は他の要因によるものと考えられた。  また、他の分析結果も、非加熱抽出の方が市販のイワシ油よりも強い脂質代謝改善作用を示すこ とがわかった。
5 )結果の要約
@いずれのイワシ油も脂肪重量、総コレステロール、中性脂肪がコントロールよりも減少した。こ れは、イワシ油中に含まれる DHA や EPA に起因するものと考えられた。(これについては公知の事実)
Aしかし、 DHA と EPA の含有量に大きな違いはなかったにもかかわらず、非加熱抽出イワシ油の方が、明らかに、脂質代謝改善作用と肥満防止作用が強かった。
B非加熱抽出の機能性が高かった理由として以下の点が考えられる。
a )非加熱抽出することにより、脂肪酸以外の脂溶性有用成分(ステロール、カロテノイド、脂溶性ビタミンなど)が非加熱抽出イワシ油中に残存した。一方、市販のイワシ油では精製工程中にこれらの成分は分解などにより失われた。
b )非加熱抽出油中に残存する低分子の水溶性成分(ペプチド、核酸など)の効果。イワシすり身排液から遠心法により回収された非加熱抽出油はそれ以上の精製を行う必要がないため、市販のイワシ油のように加熱等による精製をする必要がない。したがって、非加熱抽出イワシ油では、これらの成分の損失を防ぐことができたため、油中に水溶性の活性成分が残存した。
C )煮取り油では高温による処理のためトランス酸が生成することが考えられるが、非加熱抽出油ではそういったことはない。トランス酸の脂質代謝に対する影響については不明であるが、もしトランス酸が脂質代謝に悪影響を及ぼすとすれば、煮取り油中の DHA や EPA の栄養効果がトランス酸の存在により相殺されている可能性もある。
 
 
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